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百聞は一見にしかず
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 ヒトの目はカメラやデジカメに似た構造で、レンズにあたる水晶体で光を集め、フィルムやCCDにあたる網膜に像をつくります。
 網膜には、片目で約100万個もの視細胞が並び、周辺部に多い桿体細胞は感度が高くて暗いところでも見える代わりに色が識別できず、中心部に多い錐体細胞は、色が識別できる代わりに暗いところが苦手です。
 このため、かすかな光の暗い星を見るときは、目標から目を反らして、桿体細胞の多い視野の端の方で見ると見えることがあります。
 網膜の視細胞がキャッチした情報は、視神経を通じて大脳に伝えられますが、この視神経が網膜とつながる部分には、視神経のケーブルの束が邪魔になって視細胞が存在しません。この部分を盲点といい、ここに映った像を私たちは見ることができません。
 左目を手で隠して、挿絵の白丸○の正面に右目がくるようにして見て下さい。頭か紙面を前後させて、挿絵と右目との距離を変えると、右前方に見えていた黒丸●が盲点に入ったとき、スーッと消えて見えなくなります。両目で見れば左右それぞれの目の盲点をカバーしあえるのですが、不思議なことに、私たちは片目で景色を見ても視野全部が見え、盲点を感じません。実は、見えない部分の景色は脳が想像して作っているのです。
 昔から「百聞は一見にしかず」といい、人は、聞いたことには自信が持てなくても、見たことには絶対の自信を持つことが多いのですが、私たちが「見ていると思っている景色」は、意外にいい加減なものだということになります。
「うちの彼氏かっこいいねん」と得意げな女の子の周りで、みんなが首をかしげている光景をよく目にしますが、その子の脳は、きっとかっこいい彼を見ているのでしょう。
 見えないものや実際と違ったものが見える錯視を利用した「だまし絵」の世界を楽しむのも面白いですね。

※この文章は、生物Iの授業で話した内容をまとめたものです。
化学教育兵庫サークルに校正、編集していただき、神戸新聞「理科の散歩道」に掲載されました。

Ikimono-Note by E.Yoshida