先日、甲南大学ポートアイランドキャンパスに設置された巨大DNA模型が、ギネスブックに認定されました。このDNA模型は実物の10億倍で、世界一の高さ22.5mで、直径2m、重さは1.25トンもある立派なもので、一般にも公開され、夜はライトアップされるそうです。 DNAはデオキシリボ核酸の略で、私たちヒトをはじめ地球上のほとんどの生物の設計図で、梯子をねじったような二重らせん構造をしています。21世紀はDNAの世紀とも言われ、各方面で注目を浴びていますが、この構造をワトソンとクリックが解明したのは1953年と、わずか半世紀前のことです。 実物のDNAは小さな細胞の中に収納するため、直径はわずか2nm(10億分の2m)しかありませんが、精子や卵1個に入っているDNAをつなぐと長さは1mにもなり、これがヒトのDNAの1セットになります。甲南大学の模型は10億倍なので66段しか作られていませんが、この倍率で30億段全てを作ると10億m=1000万kmと、地球を250周もする長さとなります。 また、1mのDNAに記録できる情報量は、0と1の2進数で記録するコンピュータと異なり、DNAは、アデニンA、チミンT、グアニンG、シトシンCという4種の塩基と呼ばれる物質を梯子の上に直列に並べて4進数で遺伝情報を記録しており、ヒトの場合、梯子が30億段もあるため、情報量はCD-Rより少し多い750MB(メガバイト)におよびます。漢字1文字が2バイトなので約4億字分となり、原稿用紙100万枚分、新聞?年分の情報が詰め込めることになります。また、DNA上の塩基の配列の組み合わせは、4種類で30億段なので、組み合わせの上では4×4×4×4×・・・と4を30億回掛け合わせた430≒1018種類のヒトが生まれることになります。(45=1024≒103なので) もちろん、ヒトになるために固定された配列もあるため、実際の種類はこれより少ないですが、108が1億、1012が1兆なので、この数がいかに大きいかがわかり、同じDNAのヒトが生まれてくる確率は、一卵性双生児を除けば、限りなくゼロに近いといえます。 ただ、1mのDNAという物質のうち、実際に私たちの設計図として働く遺伝子と呼ばれる部分は多くても3%ほどで、残りの97%には働きがないと考えられています。事実、動物実験でこの部分を切り取っても生存に影響はなく、がらくたの意味で、ジャンクDNAともいわれます。生命40億年の歴史の中で、不要になった遺伝子や、ウイルスが持ち込んだ遺伝子が働きを失ったまま組み込まれたものと考えられていますが、1mのDNAを60兆回コピーしても役に立つのはたった3%の3cm分だと思うと、ずいぶん無駄な努力をさせられているとも思います。しかし、それがまた、私たち生命が積み重ねてきた歴史の重さなのだと思います。 先端科学の象徴でもあるDNAの模型を眺めて、生命の神秘に思いを馳せてみるのはいかかでしょうか。 |
※この文章は、生物Iの授業で話した内容をまとめたものです。
化学教育兵庫サークルに校正、編集していただき、2010年4月に神戸新聞「理科の散歩道」に掲載されました。
Ikimono-Note by E.Yoshida