科学史上最大のねつ造  HOME  戻る

 今、科学の世界は、ヒトクローン胚からES細胞を作製したという論文のねつ造問題に揺れ、世界の学者、産業界に大きな衝撃を与えています。数年前にも、常温超電導の世界記録を出した実験のねつ造がありました。
 未来を拓く最先端の研究で、世界的な研究者のねつ造が相次いでいるのは非常に残念なことですが、今回は、科学史上最大のねつ造事件といわれる百年前の出来事についてお話しします。
 ヒトの起源は現在ではアフリカ単一とされていますが、1908年、イギリスで、ヒトのように脳が大きな頭蓋骨とサルに似たアゴをもつ原人の化石が発見されました。この世紀の大発見は、「ヨーロッパ人の祖先が他の地域の原人より大きな脳を持っていた」と称賛されましたが、その後、様々な原人の化石が発見され、進化の道筋が明らかにされてゆくと、その系統から外れているピルトダウン人に対する疑惑が大きくなりました。結局、発見者の死後、1954年になって、フッ素を用いた年代測定によって化石が極めて新しいものであることが判明、ピルトダウン人は、ヒトの頭蓋骨とオランウータンのアゴを薬品で古く見せかけた単純な偽物でした。
 ピルトダウン人は教科書からも消え、忘れ去られましたが、ねつ造の真相は不明で、近くに住んでいた推理作家のコナンドイル犯人説までありミステリーのままです。
 同様のねつ造で教科書に載り、その後削除された例は、自分で埋めて発掘していた上高森遺跡の石器が記憶に新しいですが、古くは、ねつ造とは言われていませんが、ピルトダウン人と同じ年に発見された新元素ニッポニウムも、その原子番号の元素が天然には存在しないことが分かり、また、1931年に発見された明石原人も、今は教科書には乗っていません。教科書に載っている内容も、必ずしも正しいとは言えないということですね。
 ねつ造を生む原因は、賞賛を浴びて富や名誉を手にしたいという野望、理論や学説を正当化したい焦り、周囲の過度な期待や先走りなどが考えられますが、ねつ造によって、その分野の先端を走る世界中の優秀な科学者が、成功するはずもない再試(ねつ造された大発見と同じ実験をして確認)を行い、それを前提に誤った方向に研究を進めるため、貴重な時間と労力、資金が無駄にします。
 我が国では今、耐震強度ねつ造が問題化していますが、あらゆる分野でフェアプレーを願いたいものですね。

※この文章は、生物Iの授業で話した内容をまとめたものです。
化学教育兵庫サークルに校正、編集していただき、神戸新聞「理科の散歩道」に掲載されました。

Ikimono-Note by E.Yoshida