性の決定  HOME  戻る

 私たちヒトの性別は、性染色体と呼ばれる1対の染色体の組み合わせで決まり、X染色体を2本もつと女性(XX)、X染色体とY染色体をもつと男性(XY)になることが一般に知られています。
 ところが、全ての生物の性別が性染色体によって遺伝的に明確に決まっているわけではありません。たとえばワニやカメなどハ虫類の多くは、卵の中で赤ちゃんが発生するときの温度で性別が決まり、ある決まった温度よりも低温ではオス、高温ではメスが生まれる仲間、逆に高温でオスが生まれる仲間、低温と高温でメス、その中間でオスが生まれる仲間が知られています。彼らは2億年以上前に出現し、環境の変化に合わせて少しずつ進化しながら現在まで生き抜いてきたわけですが、急激な地球温暖化が起こるとメスまたはオスだけが生まれることになり、絶滅してしまいます。
 また、魚類の中には、一生の中で性転換を行う仲間がいます。たとえば、若いうちはメスで、群れの中で成長した一匹がオスに性転換すると、多くのメスと縄張りをもつ一匹の強いオスの一夫多妻制を築くのに有利です。逆に、若いうちはオスで、成長するとメスに性転換すると、大きなメスが精子より栄養が多く必要な卵を造れるので有利になります。また、メスからオス、オスからメスの双方向に性転換できる仲間もいて、ヒトならば無人島に同性が二人で取り残されると子孫を残せませんが、二匹のうちどちらかがオスまたはメスに性転換して生殖を可能にします。
 体外受精で卵性の魚類と異なり、体内受精のための特殊な性器や、胎生による子宮などの設備が必要な哺乳類では成長してからの性転換は困難ですが、実は、男性は全員一度性転換しています。
 ヒトは母親の体内で、全て女性として受精卵から発生し、このうちY染色体をもつヒトは、Y染色体上にある遺伝子の働きで精巣ができ、ホルモンなどが作られ、男性に性転換してゆきます。ホルモンの影響も大きいため、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)の影響で精子が減少する事態も起こるのです。
 わずかな温度差や微妙なホルモン。私たち生物の性決定は、地球温暖化や環境ホルモンによって壊滅されてしまう繊細なシステムです。有性生殖10億年の歴史を守るためにも、地球環境について考えてゆかなければなりません。

※この文章は、生物Iの授業で話した内容をまとめたものです。
化学教育兵庫サークルに校正、編集していただき、2010年9月に神戸新聞「理科の散歩道」に掲載されました。

Ikimono-Note by E.Yoshida