春を待つ蛹の中で  HOME  戻る

 等身大変身ヒーローの先駆けである仮面ライダーは、バッタの改造人間という設定で、「変身!」というセリフとポーズが40年前にブームになりました。
 確かに、昆虫の成長にともなう「変身」は私たちヒトの体型の変化からみると驚くべきものがあります。
 ただ、バッタは幼虫と成虫の形が似ており、昆虫の中では変化が小さいので、セミやトンボと同様に不完全変態に分類されます。
 これに対して、チョウのなかまは完全変態し、芋虫(イモムシ)と呼ばれる幼虫が、蛹(サナギ)を経て、羽を持つ美しい成虫になる大変身を遂げます。
 チョウは美しい、芋虫や毛虫は醜いと思う人が多いと思いますが、それぞれの体型には理由があります。
 卵から生まれた幼虫は、体を大きくするために、栄養を取って貯めることに特化した体型をしています。
 また、成虫は、生殖に特化した体型で、異性に出会うために飛行能力をもち、美しい姿をしています。食べる能力さえ持たず、短い余命の中で生殖に全てを賭ける者も多く、近年、寄生虫によって見かけなくなった蓑虫(ミノガ)の成虫に至っては、オスだけが飛び、メスには羽も脚もなく、蓑から出ずに産卵だけをして死んでゆきます。
 昆虫たちは厳しい生存競争を、成長に応じて特化した別の体型をとる戦略で勝ち抜いてきたのです。
 さて、チョウの幼虫と成虫は似ても似つかない別の生物のようですが、実は、蛹の時期に不思議なことが起こっています。幼虫が一度ドロドロに溶けて成虫になるというと大げさですが、細胞レベルで「変身」が起こり、成虫の細胞に作り変えられているのです。
 アゲハやモンシロチョウは蛹の形で厳しい冬を耐え、成虫になり飛び立つ春を待っています。

※この文章は、生物Iの授業で話した内容をまとめたものです。
化学教育兵庫サークルに校正、編集していただき、2011年2月に神戸新聞「理科の散歩道」に掲載されました。

Ikimono-Note by E.Yoshida