育児と教育  HOME  戻る

 人は学校教育を終え、苦労して就職しても、さらに厳しい社員教育が待ち受けており、一人前になるのは実にたいへんです。
 約七百万年前、私達ヒトの祖先は直立二足歩行を始めました。
 四足歩行の体勢で重い頭を支えるには首に無理がかかりますが、直立すると頭を背骨の真上に乗せてバランスをとるだけでよく、脳を大型化しやすくなりました。また、自由になった前足で道具を使い、広がった喉(のど)の空間を利用して言葉を話せるようになると、その道具や言葉を操ることで、脳はさらに進化しました。
 ただ、四足歩行を前提に進化した動物が想定外の直立をしたため、問題も生じました。胃下垂の方も多いと思いますが、重力で下ろうとする内臓をお椀状の骨盤で支えるため、産道を骨盤の狭い隙間に設けるしかなくなりました。
「巨大な脳」を「狭い産道」に通す。この矛盾に対してヒトが選んだ方法は、脳や体が未成熟で小さなうちに産道を通して出産してしまうというぎりぎりの作戦でした。それでも赤ちゃんの頭は産道に対して大きく、ヒトは他の動物に比べて「難産」を余儀なくされました。 出産後すぐに歩き出せる馬の赤ちゃんと違い、ヒトの赤ちゃんは未成熟な状態で出産するために実に弱い存在で、愛情をこめた「育児」が必要となりました。また、動物として動き回れるように育っても、道具や言葉を操り、社会を生き抜くために、育児の枠を超えた「教育」が必要となりました。そして出産や育児、教育には、母親や父親だけでなく、祖父母、社会の介助も必要で、ヒトは集団で助け合って生きる動物になりました。
 直立二足歩行という偶然の進化からたどり着いた育児や教育。社会の中では、私達全員が次の世代に対する教育者であり、教養を深める必要があります。

※この文章は、生物Iの授業で話した内容をまとめたものです。
化学教育兵庫サークルに校正、編集していただき、神戸新聞「理科の散歩道」に掲載されました。

Ikimono-Note by E.Yoshida