空気中に含まれる酸素の濃度は約20%ですが、この値は、46億年の地球の歴史の中で常に一定だったわけではありません。 巨大なシダ植物が繁栄した3億年前には酸素濃度が約35%もあり、現在の濃度では体を大きくできない昆虫も巨大化し、羽根を広げると70センチもあるトンボが生息していました。私たち哺乳類の祖先も、この豊富な酸素と食料を利用して恒温動物に進化し、活発に活動していました。 ところが2億5000万年前、古生代の終わりを告げる史上最大の大絶滅が起きた頃、酸素濃度はいきなり約10%にまで激減しました。豊富な酸素の恩恵を受けて恒温動物に進化した私たちの祖先にとっては「話が違う」というわけで、一部の小型の種を残してほとんどが絶滅しました。 このとき、酸素不足という危機を乗り越えて生き延びた動物たちはどのような戦略をとったのか? まず、両生類や恐竜以外のハ虫類は変温動物で、酸素をあまり使わない省エネ生活を続けました。 また、恐竜の祖先は、肺の周りに気嚢(きのう)というポンプを備え、常に新鮮な空気を送り込めるようにして呼吸効率を高めました。このシステムは非常に優れていたため、大量のエネルギーを手にした恐竜は、激減した酸素濃度が回復すると巨大化して地上を支配し、やがて鳥に進化すると、空気の薄い上空でも飛べるようになりました。 私たち哺乳類の適応は、残念ながら恐竜や鳥には及びませんが、横隔膜による腹式呼吸で肺に多くの空気を取り込むことで、酸素不足を乗り越えました。音楽の授業で教わった腹式呼吸の起源は、2億年以上も前にあったのですね。 私たちは今、電力不足に直面していますが、危機を乗り越える生物進化のたくましさは見習うべきかもしれません。 |
※この文章は、生物Iの授業で話した内容をまとめたものです。
化学教育兵庫サークルに校正、編集していただき、神戸新聞「理科の散歩道」に掲載されました。
Ikimono-Note by E.Yoshida