太古の地球環境問題  HOME  戻る

 今年の夏は、豪雨、竜巻が相次ぎ、兵庫県内でも多くの方が被害に遭われました。地球温暖化が原因ともいわれていますが、この地球温暖化は、ヒトという生物の活動による大気中の二酸化炭素濃度の増加によるとされます。ヒトという生物によって地球環境が変えられ、ヒト自身も含めた多くの生物が絶滅の危機に瀕しているわけですが、実は太古の地球においても、生物の活動によって大気の成分が激変するという大事件がありました。
 地球誕生が46億年前、生命誕生が約40億年前と考えられていますが、誕生して間もない頃の原始生物は、海水に溶けた栄養分(有機物など)を細胞内に取りこんだり、硫化水素などから有機物を合成して、それらを酸素を使わない呼吸(嫌気呼吸)で分解してエネルギーを作り出して生きていました。そして驚くべきことに、現在の大気には21%も含まれ、私たちが当たり前のように吸い込んでいる酸素が、その頃の地球には全くなかったのです。傷口を消毒するとき、消毒薬オキシドール(過酸化水素水)から発生する酸素によって細菌を殺しますが、生物にとって酸素は非常に有害な物質なので、酸素がないことは生物にとって都合がよかったのです。
 しかし、やがて海水中の有機物が減少して原始生物たちに飢餓の危機が迫ると、太陽の光のエネルギーを利用して、光合成を行って二酸化炭素から有機物を作り出すシアノバクテリアなどが出現し、自分で栄養を作る能力を身につけて飢餓の危機を脱しました。これは生物界の「産業革命」ともいえる大発明だったのですが、光合成によって発生する酸素により、地球の大気は「汚染」され、多くの生物は絶滅の危機に見舞われました。さぁたいへん。
 しかし、この絶体絶命のピンチも、生物はチャンスに変え、新たな進化を生みます。この危険な酸素にあえて立ち向かい、呼吸に利用する細菌が出現し、酸素呼吸(好気呼吸)によって嫌気呼吸の20倍という莫大なエネルギーを生み出すことに成功したのです。それだけでなく、あるものは私たちの祖先の細胞に侵入し、ミトコンドリアとして細胞内で共生して好気呼吸を行うことで、私たちが大型で活発な高等生物に進化することを可能としました。
 最初は酸素がなかったこと。危険な酸素で地球環境が汚染されたこと。酸素に立ち向かった者がいたこと。侵略者のおかげで私たちは酸素呼吸できること。・・・。生命と地球の歴史はピンチをチャンスに変える大逆転の連続でした。
 今、私たちは、私たち自身の存在を脅かす現在の地球環境問題と戦わなければなりません。私たちの国は、「技術は最高、モラルは最低」とも言われます。二酸化炭素の排出量削減のために一人一人ができることは何か。今すぐ歩き出さなければなりません。

※この文章は、生物Iの授業で話した内容をまとめたものです。
化学教育兵庫サークルに校正、編集していただき、2009年11月に神戸新聞「理科の散歩道」に掲載されました。

Ikimono-Note by E.Yoshida