生命は海に生まれ、魚になり、やがて陸に上り、トカゲになり、ネズミ、サルを経てヒトになった。私たちが描く進化のアウトラインはこのようなものではないでしょうか。このため、魚は最初から海にいたと考えられがちですが、実は、現在海に棲む魚は、大昔に一度川を上り、再び海に戻った仲間です。 約4億年前、海を支配した魚は、今の魚とは違い、背骨がなく、昆虫やエビのように表面に硬い殻をもったものもいました。 この魚たちの中で弱者だった私たちの祖先は、住みやすい海での生存競争に敗れ、河口から川に逃れてゆきます。海水と川の淡水は塩分濃度が違いますが、体の内外の塩分濃度の違いは生物にとって大問題で、ナメクジに塩をかけるとしぼんでしまうことはよく知られています。塩分濃度の低い淡水中では、塩をかけられたナメクジとは逆に、体の中に水が浸みこんで体が膨れて破裂してしまいます。そこで、川を目指した魚たちは腎臓を創り出し、尿を大量に出すことで体内に入ってくる水を排出しました。私たちは毎日便所に通いますが、これが「おしっこ」の意外な起源です。 また、淡水中では、海水と違ってカルシウムが不足します。カルシウムは生物に重要で、私たちも不足するとイライラします。そこで淡水を目指した魚たちは、これを蓄える手段として硬い背骨を生み出しました。腎臓や背骨のように、私たちの体は、生命の40億年に渡る環境克服の歴史の集大成です。 川を目指した魚たちはさらに進化します。渇水期に体が水面の上に出てバタバタして移動しているうちにヒレが足になり、大気中で呼吸するために肺が生まれました。現存するシーラカンスや肺魚はこの状態で進化が止まっていますが、私たちの祖先は、魚類から両生類、哺乳類と進化して陸上を支配するようになったのです。 さて、海を追い出され、川という過酷な環境を克服した魚たちの一部は海に戻り、彼らを追い出した原始的な魚を滅ぼして海を支配します。背骨とそれを囲む筋肉、肺を進化させた「うきぶくろ」によって軽快に運動できるように成長した彼ら硬骨魚類にとって、海に安住して進化を止めていた原始的な魚は敵ではなかったのです。 最後に、ここに描いた進化の物語ですが、つい最近までは、うきぶくろが肺に進化、哺乳類は爬虫類から進化したと考えられていました。それが、肺がうきぶくろ、哺乳類は両生類からというように、私たちが考える生命の歴史もまた、日々、進化しています。 |
※この文章は、生物Iの授業で話した内容をまとめたものです。
化学教育兵庫サークルに校正、編集していただき、2010年2月に神戸新聞「理科の散歩道」に掲載されました。
Ikimono-Note by E.Yoshida