イラスト 尼崎西高校 三好まどか


男の価値  HOME  戻る

 有性生殖は、両親の遺伝子を混ぜ合わせることで多種多様な子供を産み、環境変化に適合した誰かが生き残って進化するいう優れたシステムですが、メスとオスの出会いや求愛、受精が必要で、非常に手間がかかります。また、子を産めず、遺伝子を運ぶ精子を作るだけともいえるオスの存在も問題となります。
 このため、地球上の高等生物のほとんどは有性生殖を行いますが、オスの存在による無駄を少なくする工夫をしている者も多くいます。
 たとえばカタツムリは、一匹の体の中にオスとメスの性器を持つ雌雄同体で、二匹が出会うと互いの精子を交換し、互いに産卵することで、子を産まない個体をなくしています。
 また、有性生殖の道具であるメスの卵が、精子と受精しないで無性生殖的に孵化して子供になる「単為生殖」を併用する生物も多くいます。
 たとえばミジンコは、環境がよい春や夏には単為生殖でメスがメスだけを産んでどんどん増え、冬が近づいて環境が悪くなるとオスも生まれて有性生殖で休眠卵を産んで越冬します。ハエの仲間も有性生殖していますが、栄養状態がよい環境では、成虫になって受精する時間を節約して、幼虫(うじ虫)の体内の卵が成熟して単為生殖で孵化し、体を食い破って多くのうじ虫が生まれます。効率良く増殖できる単為生殖(無性生殖)と、多様性を確保して環境変化に適応する有性生殖の長所を組み合わせて逞しく生きているのです。
 脊椎動物でも哺乳類以外では単為生殖の例が確認されており、両生類のオガサワラヤモリは国内産にはオスが見つかっておらず、メスだけで単為生殖していると考えられます。
 オスを用いる有性生殖の効率を考えると、ヒトの場合男性と女性がほぼ同数なので、人口維持には出生率2以上が必要ですが、もし雌雄同体やメスだけによる単為生殖であれば出生率は基本的に1でよく、残念ながらオスの存在による効率の悪化は明白です。
 今のところ、私たち哺乳類だけはオスとメスの受精による有性生殖しか確認されておらず、オスの存在意義が確保されていますが、国内の大学の研究では、メスの卵に別のメスの卵の染色体を特別な方法で受精させて生まれた「二母性マウス」が誕生しています。この技術がヒトに応用されると、女性だけで子孫を残せるので効率もよく、しかも二人の母親の遺伝子が混ぜ合わされて環境変化にも強いため、男性が不必要な時代が来てしまうのかもしれません。

※この文章は、生物Iの授業で話した内容をまとめたものです。
化学教育兵庫サークルに校正、編集していただき、2010年7月に神戸新聞「理科の散歩道」に掲載されました。

Ikimono-Note by E.Yoshida